サムスカの有効成分であるトルバプタンは、大塚製薬株式会社において電解質排泄の増加を伴わず過剰な水のみを排泄する「水利尿薬」を目指して開発された、合成された非ペプチド性のバソプレシンV2-受容体拮抗薬です。トルバプタンは、腎集合管でのバソプレシンによる水再吸収を阻害することにより水利尿作用を示し、塩類排泄を増加させずに更なる利尿を得ることが期待され、心不全及び肝硬変における体液貯留の患者に対して臨床開発が行われました。また、水利尿作用とは異なる腎のう胞細胞でのcAMP産生抑制に伴う腎容積増大抑制作用が期待され、多発性のう胞腎患者に対して臨床開発が行われました。〈心不全における体液貯留の開発の経緯〉心不全における体液貯留の治療の基本は水・ナトリウム貯留を防ぐことであり、利尿薬が適応されます。利尿薬は、心不全患者の体液貯留に伴う所見(頚静脈怒張、肝腫大、下肢浮腫、肺うっ血等)を軽減するための最も有効な薬剤です。心不全における体液貯留に対して使用される利尿薬は、主に塩類排泄型ですが、その作用から低ナトリウム血症、低カリウム血症等の血清電解質低下や、降圧作用によるめまい、ふらつきが発現することがあるため、塩類排泄型利尿薬を増量・追加できないような心不全患者に対しては、塩類排泄を増加させない新しい作用機序の利尿薬が求められていました。一方、電解質の低下や低血圧等の副作用の懸念がない場合でも、病態の進行に伴う心拍出量の低下、腎機能の悪化等により、既存の利尿薬の効果が減弱し、効果不十分な場合もあります。そのような心不全患者に対しては、併用効果が期待できる作用機序の異なる利尿薬が求められていました。国内で実施した第Ⅲ相臨床試験では、ループ利尿薬(単独、サイアザイド系利尿薬の併用、抗アルドステロン薬の併用)による治療中の患者を対象とし、これら利尿薬治療によっても体液貯留が認められる患者を対象として有効性が確認され、サムスカ錠15 mgは2010年10月に「ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留」を効能又は効果として、製造販売承認を取得しました。また、サムスカ錠7.5 mgは、2013年2月に製造販売承認を取得しました。〈肝硬変における体液貯留の開発の経緯〉肝硬変における体液貯留の治療の基本は、安静と塩分制限ですが効果不十分な場合、次に利尿薬が選択されます(肝硬変診療ガイドライン)。利尿薬は、肝硬変における体液貯留を軽減するための最も有効な薬剤です。薬物治療で十分な効果が認められない場合には、腹水穿刺排液法、腹水ろ過濃縮再静注法という侵襲的治療や、腹膜・頚静脈シャント、経頚静脈肝内門脈大循環シャント術等の外科的治療が選択されます。しかし、電解質の低下や腎機能の悪化の懸念により既存の利尿薬で効果不十分な場合や低アルブミン血症でも利尿効果が期待できる利尿薬が求められていました。国内で実施した第Ⅲ相臨床試験では、ループ利尿薬と抗アルドステロン薬の併用による治療中の患者を対象とし、これら利尿薬治療によっても体液貯留が認められる患者を対象として有効性が確認され、2013年9月に、「ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留」の効能又は効果がサムスカ錠7.5 mgに追加されました。〈常染色体優性多発性のう胞腎の開発の経緯〉常染色体優性多発性のう胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease:以下、ADPKD)は、PKD遺伝子変異により、両側腎臓に多数ののう胞が進行性に発生・増大し、腎臓以外の種々の臓器にも障害が生じる遺伝性のう胞性腎疾患です。ADPKD患者では、のう胞は胎生期からすでに形成されているといわれており、のう胞は加齢とともに増大し、腎機能は進行性に低下します。糸球体ろ過量(以下、GFR)は40歳頃から低下し始め、70歳までに約半数の患者が末期腎不全に至ります。1開発の経緯開発の経緯
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